〈 It / Es 〉thinks, in the abyss without human.

Transitional formulating of Thought into Thing in unconscious wholeness. Circuitization of〈 Thought thing 〉.

備忘録 2021. 4.26. 『 インドクワガタアリの脳 』

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 ニューズウィーク日本版の記事よりf:id:mythink:20210320151713j:plain

 

脳の2割を失い女王に昇格 インドクワガタアリの驚くべき生態明らかに | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 

 

脳の大きさを変化させるめずらしい生態が今回明らかになったのは、インドクワガタアリと呼ばれる体長2.5センチほどの大型のアリだ。大きな眼とまるでクワガタのような大アゴが特徴的で、インドの湿潤な平野部に多く生息している。体長の4倍ほどの距離をジャンプして獲物を狩ることから、ジャンプアリの別名でも呼ばれる。

脳の衰退の前提として、まずはそのユニークな繁殖システムを把握しておきたい。多くのアリの種では、女王アリとなるべき個体は孵化直後から決まっている。ところがインドクワガタアリの場合、すべてのメスのアリにチャンスがある。コロニーの大多数のメスが、女王昇格の機会を虎視眈々と狙っている状態だ。

これまで女王だったアリが死亡した時点で、次期女王の座を賭け、メスたちは激しい争奪戦を繰り広げる。鋭いアゴを相手に突きつけて攻撃し合い、耐えた者だけが勝者となる。多い時でコロニーのメスの7割ほどが闘いに加わり、争いは最長で40日間ほど続く。

最終的に5体から10体ほどの個体が勝ち抜き、産卵能力を有する「ゲーマーゲート」と呼ばれる集団となる。こうして働きアリから生殖能力を持つ新たな女王が誕生することで、巣の全滅を防ぐしくみとして機能しているのだろう。アリの種類にもよるが、ナショナル・ジオグラフィック誌は一般的なアリのコロニーであれば、女王アリの死に伴って巣も滅びゆく運命にあると指摘している。

 

  

 

このようなめずらしい女王制を敷くインドクワガタアリだが、女王に昇格した個体にユニークな変化が起きることがこのほど判明した。脳の一部を失い、代わりに産卵能力を拡充するのだ。この不可思議な実態は、ジョージア州立ケネソー大学のクリント・ペニック生物学博士らチームによる研究で明らかになり、科学機関誌『英国王立協会紀要B:生物科学』上で4月14日に発表された。

働きアリからゲーマーゲートに昇格した個体は、その脳の容積を19%から25%ほど失う。縮小に伴って働きアリとしての特性を失い、毒液の生成が停止するほか、狩りにも出ず、侵入者の撃退もせず、繁殖行動に専念するようになる。

研究を主導したペニック博士はニューヨークタイムズ紙に対し、レーザーを使った画像計測技術により、脳のどの領域が縮小しているのかを割り出したと説明している。

最も衰退していたのは視葉と呼ばれる領域で、これは主に視覚情報を処理する部分だ。博士は理由について、光の届かない巣のなかで産卵に専念することになるため、視覚信号を処理する必要がなくなるためではないかと述べている。

視葉に加え、認知的タスクに関連する脳の中心部も大きく縮小する。狩りを行う際には高度な認知能力が求められるが、女王アリの任務には必ずしも重要ではない。脳はエネルギー的コストを多く要する器官の集まりであるため、不要となった領域を縮小させることは、生命維持にとって合理的な選択となり得る。

脳の一部を縮小させたゲーマーゲートは、代わりに卵巣を体積比で5倍ほどに発達させる。かつて脳の維持に使われていたエネルギーを転用し、生殖関連の機能の拡充に充てているのではないかと見る専門家もいるようだ。

 

 

 

さらに不思議なことに、この変化は可逆的なのだという。研究チームはさらに分析を進め、ゲーマーゲートの個体が女王として立場を失った場合、脳の体積が回復することを突き止めた。

チーム実験のため、30体ほどのゲーマーゲートをそれぞれの巣から3〜4週間ほど隔離した。すると、すべての個体が3日以内に産卵を行わなくなり、女王役としての機能を停止したことが確認された。コロニーの他の個体との社会的接触を断たれ、働きアリから餌を運ばれるなど女王役としてのケアも受けなくなったことで、ゲーマーゲートとしての特性を喪失したと見られる。

次に、これらの個体を巣に戻したところ、「取り締まり」と呼ばれるコロニーの自浄機能が確認された。コロニーの働きアリたちは、卵巣が部分的に発達してはいるが女王アリではない個体を発見すると、深刻なケガを負わせない程度に噛みついて攻撃する。こうしたストレスがゲーマーゲートに刺激を与え、その体に変化を促すものと研究チームは考えている。

取り締まりを受けた個体は脳のサイズが再び増加し、働きアリとほぼ同等の大きさまで回復した。活動パターンも変化し、餌を探し求めて動き回るなど、一般の働きアリとよく似た行動が観察されたという。一般に、餌の収集には高度な認知能力が求められる。英ネイチャー誌は、このように脳のサイズが回復するおかげで、女王の立場を追われた個体が再び働きアリとして生き延びられるのではないかと見ている。

これまでにも一部の動物は、脳の大きさに季節的な変動を生じることが知られてきた。しかし、これは比較的長寿の脊椎動物に限ったものだ。著名な例としては、スズメの仲間の鳴きん類などが、繁殖や冬眠などに備えて脳の大きさを変えることが知られている。

だが、可逆的な変化には相応のコストがかかるため、短命の昆虫にはあまり見られない。ミネソタ大学のエミリー・スネル=ルード進化生物学准教授はナショナル・ジオグラフィック誌に対し、「このレベルの柔軟な可逆性は聞いたことがありません」「(ミツバチなど脳を肥大化させる例はあるものの)神経的な投資先を一旦シフトし、さらに後に元に戻すとなると、完全に別の話です」と驚きをあらわにしている。

研究を主導したペニック博士は、将来的に人間の脳神経の再生への応用を期待しているようだ。

 

 

 

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 生命における個体性と集団性f:id:mythink:20210320151713j:plain

 

 僕は生物の研究者ではないので、専門的見解を述べるつもりはありませんが、こういう記事は哲学的思考訓練の素材として興味深いので、"哲学的に" 考えておきますね。産卵時には脳が縮小し、餌の収集時には脳が大きくなる事が繰り返されるという脳の可逆性は、脳神経自体にその事象の雛型があらかじめプログラムされているという事ではなく、"ひとつの個体による産卵という生命の直接行為""その為に必要な餌の集団による収集という社会的行為" が結びついた自律的機構における事象である と考えられるでしょう。個体性と集団性が結びついたこの自律的機構は、産卵という根源的行為それ自体の上に社会的なものが "上書き" されなければ生命を維持できない のを感覚的に知っている事の現れだといえます。

 

 生命は、たんに標識的・分類的に生物である事に留まることは出来ないのです。自らの生命を維持する術を持たなければならないという過酷な現実を生物は無意識的に知っている。これは生命が個体のみの行動 ( 産卵 ) に留まっていては、生命である事が出来ない、つまり、生命とは、"生命であり続けるという過剰な持続性" が上書きされて初めて生命足りえる。この過剰性とは、集団的なもの社会的なものによって生命というものの境界がずらされる事によって組織化される関係性 であり、洗練された言い方をすると、かつてウンベルト・マトゥラーナとフランシスコ・バレーラが提唱したオートポイエーシスと呼べる "知" だといえるでしょう。

 

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