『 72 Seasons 』( 2023 ) by メタリカ [ Heavy Metal ]
ジェイムズ・ヘットフィールド ( James Hetfield ) ヴォーカル / リズムギター
ラーズ・ウルリッヒ ( Lars Ulrich ) ドラムス
カーク・ハメット ( Kirk Hammett ) リードギター
ロバート・トゥルヒーヨ ( Robert Trujillo ) ベース
今月は、何と言っても4月14日にリリースされたメタリカの新作アルバム『 72 Seasons 』に尽きますね。熱狂的なメタリカファンには申し訳ないのですが、やっと素直に聴けるアルバムが出来たなという感想なんですよね。僕の中ではメタリカのオリジナルアルバムは1997年リリースの『 Reload 』で止まっていました。ハードロック的楽曲でありながらモダンヘヴィネスな重厚さを備えた1991年の『 メタリカ 』で世界に大きな影響を与えたものの、1996年の『 Lord 』ではよりハードロック的アプローチを深めた事でメタルファンからは批判を浴びましたね。
でも僕は全然嫌いじゃなかった。余計な装飾を削ぎ落した『 Lord 』の楽曲構成と緻密なサウンドプロダクションは格好いいと思った ( 「 Ain't My Bitch 」「 Until It Sleeps 」「 King Nothing 」など )。それにライブでは昔のスラッシュメタル曲を演奏するのでそれらを別に捨てたわけではないのは分かっていた ( 今の日本では、コスト面においてもモンスターバンドに成り過ぎた彼らを呼ぶには集客力が低すぎるのでしょうけれど )。ただ、本来『 Lord 』とダブルアルバムとして発売されるはずだった『 Reload ( 1997 ) 』の楽曲が悪くはないが平凡過ぎるなという印象でした。
ところが熱心なファンや業界からの評判を気にし過ぎたのか、次の『 St. Anger ( 2003 ) 』、『 Death Magnetic ( 2008 ) 』、『 Hardwired … to Self Destruct ( 2016 ) 』、までの長い期間に渡って、元のヘヴィメタル・スラッシュメタル路線に無理やり戻ろうとする意向が無駄な過剰性として曲に表れていて、嫌でしたね ( この時期にメタリカを聴き出した若いファンにはこの微妙なニュアンスが伝わらないかもしれませんが )、それこそメタリカらしくないなと。初期の偉大な三つのアルバム、『 Kill 'Em All ( 1983 ) 』、『 Ride the Lightning ( 1984 ) 』、『 Master of Puppets ( 1986 ) 』、に明らかに見劣りする作品作りならば、そういう路線では行かない方がマシだと思ってましたから。
しかし、今回の『 72 Seasons 』は良かった。『 メタリカ ( 1991 ) 』、『 Lord ( 1996 ) 』で確立した無駄のない楽曲作りときれいなサウンドプロダクションが戻って来ていて、その延長上に位置づけられるアルバムだと思いましたね。そこにジェイムズ・ヘットフィールドのメタリカを結成するにまで至ったかつての自分 ( 18年間 × 4季節、つまり、72季節 ) と向き合うという世界観作りが共鳴した相乗効果が出ていますね。メタリカが潤沢な資金を持っているバンドだと分かってる人にとっては、『 St. Anger ( 2003 ) 』から『 Hardwired … to Self Destruct ( 2016 ) 』に至る荒々しく粗野なサウンドプロダクションには、今でもヘヴィメタルバンドなんだというわざとらしい素振りしか感じられないんですよね。そんなのは他の人に任せておけばいいと思う。メタリカは他のメタルバンドとは違う唯一無二のバンドとして進み続ける方が面白い。そう言う意味で、何回でも聴きたくならせるような今回のアルバムを作ったメタリカは、僕が彼らをリアルタイムでずっと聴いていた若いころの自分を思い起こさせてくれましたね。感慨深い …… 。