収録曲
1. The Good Ship Lollipop
2. TimeLine
3. Slack Jaw
4. Pig
5. Clinical
6. Fractured
7. Voices
8. So Sick
9. Flowers Bloom
10. Humble Crow
11. Can’t Lose
12. Everthing Endlessness
13. Life’s Winter
シェーン・エンバリ― / Shane Embury ( bass )
ケヴィン・シャープ / Kevin sharp ( vocals )
ジョン・クック / John Cooke ( guitar )
カール・ストークス / Carl Stokes ( drums )
■ ナパーム・デス ( Napalm Death ) のシェーン・エンバリ―と元ブルータル・トゥルース ( Brutal Truth ) のケヴィン・シャープを中心とするハードコアパンク・バンド、ヴェノモス・コンセプトの5枚目のフル・アルバム『 THE GOOD SHIP LOLLIPOP 』( *A )。かつてはナパーム・デスやブルータル・トゥルースを聴いた事のある人はそれなりにいたかもしれません ( 特に1990年代頃 ) が、今では、それらのバンドや、このヴェノモス・コンセプトを聴いている人はかなり少なくなっているかも、少なくとも今の日本では。
■ ヴェノモス・コンセプトは1st から4th に至るまでは、ハードコア・パンクと呼ぶに相応しい激しさを展開してきたのですが、今回の『 THE GOOD SHIP LOLLIPOP 』において進化した音楽を提示している。年を取っても進化・深化する能力がある人達なんだなと思いましたね。
■ 今回のアルバムの特徴は、ヴォーカルのケヴィンが従来の叫ぶスタイルの一辺倒から脱却して歌っている事、そして、そのヴォーカルのメロディラインを可能にする楽曲のメロディ性が打ち出されている事、ですね。それは ハードコア・パンクでありながらもロックンロール的なキャッチ―さがある 楽曲構成になっている。
■ ここで僕が思い浮かべるのは、カーカスの『 SWANSONG 』、エントゥームドの『 DCLXVI: To Ride, Shoot Straight and Speak the Truth 』で成し遂げた変化、それまでの音楽性から脱け出した "デス&ロール" ( *B ) とカテゴライズされるようになるロックンロール的キャッチ―な変化、を生み出した時の事です。それに因んで、ヴェノモス・コンセプトは今回の『 THE GOOD SHIP LOLLIPOP 』は "ハードコア&ロール" とでも個人的に名付けたくなるようなカテゴリーを切り拓いたかもしれないと思いましたね ( これをパンク&ロールとしてしまうとメロコア的なパンク音楽・バンドに引っ張られてしまうので )。
■ 興味深いのは、このような音楽的変化が、コロナ禍で身動きが取れずにスタジオに籠った中で成し遂げられたという事です。ケヴィン・シャープはその時期に離婚も経験したと言ってたくらいで、そのような不自由な状況こそが、より音楽に没頭する集中力を高めたかもしれません。何にせよ、このようなマイナーな音楽であっても、未だ僕を楽しませてくれる作品に出合えるのは本当に刺激的な経験ですね。
( *A )
このタイトルは映画『 輝く瞳 / Bright Eyes 』( 1934 ) の中で子役少女として名を馳せたシャーリー・テンプル / Shirley Temple ( 1928~2014 ) が歌う「 On the Good Ship Lollipop 」に因んでいる。お菓子の国への旅立ちを歌ったこの曲 ( Richard Whiting 作曲・Sidney Clare 作詞 ) は以後、アメリカの映画やTVでも引用される馴染みのあるものとなっている。 ヴェノモス・コンセプトもこのような歴史的引用の延長上で同曲をパロディ的に踏襲している。おそらく彼らにそのパロディ的アイデアを与えたのは、ハンガリーの Dori Kreisz による「 On the Good Ship Lollipop 」のデスメタルヴァージョン。以下参照。
そして、これが実際の映画『 輝く瞳 』におけるシャーリー・テンプルの歌唱シーン。
( *B )
これについては以下の記事を参照。