〈 It / Es 〉thinks, in the abyss without human.

Transitional formulating of Thought into Thing in unconscious wholeness. Circuitization of〈 Thought thing 〉.

▶ ヤコペッティの『 大残酷 ( 1975 ) 』をヴォルテールの『 カンディード ( 1759 ) 』と共に哲学的に考える〈 2 〉

 

 

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 上記 ( 前回 ) の記事からの続き

 

 

 

シークエンス 11. イラストボードと化した軍隊  

 

ブルガリア ( *5 ) で軍隊に無理矢理入れさせられたカンディードだが彼が本格的に参加する前にブルガリア軍は国籍不明の敵国 ( *6 ) に大敗してしまうそんな事よりも昔風のブルガリア兵と現代的な軍隊とのコントラストが凄すぎるしかもブルガリア兵は敵国との戦力の違いからか全員固まってしまいイラストのボードになってしまうというシュールな展開にかなり手の込んだ事をしているが敵国の火炎放射器に対して生身の人間では危険すぎるという撮影時の配慮も織込み済みのウケ狙いなのでしょうか ( )

 

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( *5 )

原作が書かれた当時 ( 1759年 ) にはブルガリアは国としては存在していない以前に存在していた第2次ブルガリア帝国 ( 1185~1396 ) は十字軍として参加した1402年のアンカラの戦いでバヤズィト1世率いるオスマン帝国に敗れオスマン帝国露土戦争 ( 1877~1878年 ) で敗れるまでその支配下にあった

 

( *6 )

原作では敵国はアバリアとなっているがこれは架空のもの。( *5 ) で触れたブルガリアも当時国として存在しない事と合わせて考えるとブルガリアヴォルテールが滞在した事のあるプロイセン ( ヴォルテールプロイセン国王のフリードリヒ2世と交流があった ) であり戦争はイギリスの支援を受けたプロイセンオーストリア・ロシア・フランスなどとの7年戦争をモデルにしているという見方が出来る

 

 

 

シークエンス 12.  再会

 

戦死者が横たわる廃墟で再会するカンディードとパングロス彼はクネゴンダは犯され殺されたという残念な報告をするこれに対してカンディードそれらの原因が 憎しみ ではないかと言う

 

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シークエンス 13.  梅毒とアメリ

 

しかし最善説の信奉者パングロス最善説を否定しかねないその意見を否定し原因を というトンデモ説を展開する

 

"梅毒がなければ私達はアメリカを手に入れておらん"

"アメリ ( *7 ) なしにポテトもトマトも口紅もなかったby パングロス

 

これだけではよく意味が分からないのですが要は自分に梅毒をもたらした経路 ( パングロス自身に梅毒を移したのは、冒頭で性行為をした侍女のパケット。リンゴを採っていた女性 ) の元はコロンブスの船の水夫であり彼らがアメリカを発見してくれた恩恵にくらべれば今の状況はなんて事はないという事でしょうか・・・何という無茶苦茶な理屈仮にアメリカ発見が最善な事だとしてもその恩恵に与るために不幸があるのだというパングロス的理屈に納得する人は変わり者でしょう

 

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( *7 )

ちなみに原作ではアメリカは国という概念では出てこない ( 南米大陸の都市の記述はあるので、南北という括りではアメリカという大陸は登場する )。トマス・ジェファーソン ( Thomas Jefferson / 1743~1826 ) によって アメリカ合衆国 の言葉が加えられたアメリカ独立宣言は1776年ヴォルテールの死の約2年前だから当然といえば当然ヨーロッパ諸国からするとアメリカは植民地でしかなかった

 

アメリカという言葉自体はドイツの地理学者 マルティン・ヴァルトゼーミュラー ( Martin Waldseemüller / 1470頃~ 1520 ) フィレンツェの探検家 アメリゴ・ヴェスプッチ ( Amerigo Vespucci / 1454~1512 ) に因んで世界地図 ( 1507年 ) でコロンブスの発見した新大陸にアメリカという言葉を用いた事によるただしこれは南米大陸に書き込まれたものであり大陸全体は一般的にインディアスと呼ばれていたそのような漠然とした南北大陸についてアメリカと南アメリカという別々の記載を行った ( 1538年 ) のが社会科の授業で習う有名なメルカトル図法ゲラルドゥス・メルカトル ( Gerardus Mercator / 1512~1594 ) ですねあくまでも地理学的な視点から見た場合ですがこのような経緯の中南北大陸をアメリカ大陸とする一般的な見方が徐々に定着していきます

 

 

 

シークエンス 14.  罪と自由

 

その廃墟に突然現れた異端審問官が問う

 

"すべてが最善であると信じるのであれば、罪も罰もない事になろうby グロスを問い質す異端審問官

 

それに対してパングロス "罪と罰この世が最善であるための必然" だと言う異端審問官は "必然であれば、自由を信じていないのか" ( *8 ) とさらに問い質すパングロスは自由は必然と両立すると言うがさえぎられ罰を宣告されるちなみに原作ではこの場面は大地震発生直後のリスボン現実に1755年にはリスボンの大地震が起きており津波・火災を含めて死者が4~6万人といわれリスボンの町は廃墟と化したというこれに強く影響を受けたのがここで取り上げている『 カンディード 』の作者である啓蒙思想家のヴォルテールこの後ヴォルテールリスボン大震災に寄せる詩 ( 1756年 )を書き最善説の無力を示している ( *9 )。

 

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( *8 )

この質問から異端審問官がカトリックである事が分かりますねこれは 自由意志 の教義問答だともいえます周知の通りカトリックは自由意志を認めているが自由意志を認めないカルヴァン派などを異端としている

 

一見すると自由意志を認めないカルヴァン派は救いがなく身も蓋もないように思えますがそうとはいえませんというのも世界史の授業で習うようにマルティン・ルターが免罪符を大量販売する教会を批判したように当時は教会の腐敗が問題となっていたこのような腐敗の原因のひとつとして自由意志を認める教義があるからだと解釈出来る余地はあるのです

 

つまり贖罪に向かおうとする人々の自由意志を罪の軽減によって教会の腐敗的権力が利用するのであれば本来人間がコントロール出来ない罪を教義的に正す必要があるとカルヴァンが考えたのは当然の事だと言えます自由意志の否定予定説全的堕落などのカルヴァン主義の特徴が人間的なものの介入を許さないように見えるのは教会権力への政治的対抗措置の理論的帰結としての側面も備えている 事を見逃すべきではないでしょう

 

 

( *9 )

リスボン大震災に寄せる詩の副題は "あるいは「すべては善である」という公理の検討 " となっている悲惨な現実を語ったその詩の中でヴォルテールライプニッツに言及する

 

ライプニッツは、私にまったく何も教えてくれない

存在しうる世界のうち、最高に整っているこの世界で

底なしの無秩序、不幸の混沌が、多くの苦とわずかな快を

つなげている、その見えざる結び目について教えてくれない

罪のない者がどうして罪人と並んで、いやおうなしに

苦しまなければならないのか、かれは教えてくれない

どうしてすべてうまくいく、というのか、私にはわからない

 

とはいえヴォルテールの言葉で以って現実を省みないライプニッツの哲学が価値の無いものだと感情論的に判断するべきではないと付け加えておかなければ公平ではないでしょうヴォルテール自身も上記の詩の後に次のように付け加えている

 

"いやはや、私もそこらの学者と並んで、まったくの無知なのだ"

 

 

 

シークエンス 15.  尻を叩かれるカンディード

 

異端審問により罰を受けるカンディード尻叩きの刑 ( 笑 )パングロスは絞首刑だったが死に切れずに生きていた事が後で分かるその他にも処刑を受ける白塗りの魔女たちなどが登場し黒服の男たちによつて音楽が演奏される状況は非日常的で奇妙な世界となっているそして尻叩きの刑を受けるカンディードを見つけてクネゴンダは驚く彼女は生きていた4人の男たちと関係を持ちながら

 

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シークエンス16.   生きていたクネゴンダ

 

カンディードが追放された後城で襲われた時の真相を語るクネゴンダ

 

"悪魔に殺されたって・・・"

"犯されただけよby クネゴンダ 

 

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シークエンス 17.  アッティラクネゴンダ

 

説明を続けるクネゴンダ

 

"裁縫をしながらあなたを思っていた"

"乱暴な男が部屋に来たの"  by クネゴンダ

 

レコードやギターが無造作に散らばっている様子 ( 彼女にそんな趣味があったとは予想外・・・ヤコペッティの趣味なの?) はとても裁縫していたように思えないのですが・・・。しかも乱暴な男が来たと言うわりには顔が見えないはずの甲冑姿の男がギターを持っているだけで好きなミュージシャンのアッティラ ( *10 ) だと決め付けて興奮するクネゴンダ自分から飛びつくとは能天気すぎる尻軽なキャラになってます ( 笑 )

 

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( *10 )

ミュージシャンのアッティラ…… 誰かに由来しているのかなと思いましたがおそらくはソロデビュー ( 1972年 ) 以前の ビリー・ジョエル 前のバンド The Hussles でドラマーだったジョン・スモールと作ったバンド Attila からインスピレーションを得ているのかも1970年にアルバムアッティラ ( 邦題:フン族の大王アッティラ ) を1枚リリースしたのみで活動を終えましたが ( 売れなかったようなので )そのサイケデリックなへヴィサウンドでビリーがシャウトする楽曲 ( 特に1970年代のハードロックバンドで多用されたオルガンの歪みが特徴的 ) は今の彼からは遥か彼方の宇宙ほどにかけ離れ過ぎている ( 笑 ) ので戸惑うファンも多いでしょうでも現在のへヴィロック好きのファンからしたらお気に入りの作品になるくらい魅力的だといえます

 

この時はソロデビュー前で名義もウィリアム・マーティン・ジョエルのようなのでヤコペッティもビリーについては知らなくてその攻撃的なサウンドとバンド名が頭の片隅に残っていたという所ではないでしょうか

 

    

 

 



 以下 ( 次回 ) の記事に続く

 

 



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