〈 It / Es 〉thinks, in the abyss without human.

Transitional formulating of Thought into Thing in unconscious wholeness. Circuitization of〈 Thought thing 〉.

▶ イングマール・ベルイマンの映画『 仮面 / ペルソナ 』( 1967 )を哲学的に考える〈 2 〉

 

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 上記 ( 前回 ) の記事からの続き。

 



  3章  演技の虚構性

 

このへんで映画のストーリーの方に立ち戻ってみましょう。女優のエリザベートは舞台で突然沈黙してしまう。その理由は笑いそうになったからという。ほとんどの人は、この理由は見過ごしてしまうでしょうが、シーン 14~17. に続く失語症に陥った彼女が入院先のシーン 18~23. においても彼女はラジオから流れる女優の芝居に対して笑っているのです。つまり、この笑いは見過ごすべきものではなく、何かしら解釈の必要があるという事ですね。

 

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アルマとのやり取りの後、こちらをじっと見つめるエリザベートの顔のクローズアップが続きます ( 24. )。これによって彼女の沈黙の理由となった笑いの原因について推察する事が出来るでしょう。つまり彼女は舞台での自分の客観的姿に笑いそうになったのです。舞台での演技は共演者とのやり取りによって進んでいくのですが、実際は彼女の演技は共演者に向けられたものではなく、観客に向けられたもの なのです。

 

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これを演技とはそういうものだろうと常識的にしか考えられない人は、それ以上解釈を深める事は出来ないでしょう。ここから読み取るべきなのは、共演者と交わす直接的コミュニケーションがその相手ではなく、関係のない第三者に向かってしまっているという演技の虚構性に彼女が気付いてしまった という事なのです。つまり彼女は、自分は誰と一体しゃべっているのか、目の前の相手に自分は話しかけているのに本当はそうではないのだから自分は何をやっているのだろうという具合に、奇妙な "現実" に気付いて笑ってしまうという訳です。

 

ここでベルイマンは、演技の本当の対象である観客には "間接的行為" しか提示できない ( 言い換えれば舞台上の共演者としか "直接的には" やり取りする事が出来ない ) 演技の必然的虚構性 を、エリザベートがクローズアップであたかも "直接的に" こちら ( つまり観客に対して ) を見ているかのようなシーン 24. に重ね合わせるという演出をしているのですね。だからこのシーンによって 観客はあたかも彼女と "直接的にやりとりしている" かのような錯覚 を覚えて不安定な印象を受ける のです ( 演技者と観客を媒介するはずの "間接的行為" が欠如しているのに無意識的に気付くから )。

 

エリザベートは、この演技の虚構性を日常にまで持ち込んでしまうが故に、しゃべれなくなってしまう。看護師であるアルマはエリザベートと話をしようとする。しかしエリザベートはアルマと向き合って話そうにも、そのコミュニケーションがアルマをすり抜けて 別の第三者に向かってしまう演技になってしまうのではないかという思い込みに囚われて話す事が出来ない のです ( 言い方を変えれば、何をしようと彼女は常に誰かを演じていることになるのを自覚している )。

 

ここでエリザベートの中では、"現実" とは一体何かという不安が湧き上がります。その事を示すのがシーン 25~30. 。僧侶が政治的抗議として焼身自殺する映像を見てエリザベートは驚くのですが、これは単に彼女がショックを受けているなどと単純に思うべきではないでしょう。彼女は焼身自殺した僧侶と自分を重ね合わせているのです。僧侶も自分と同様に演技しているのなら、自殺してしまう程の演技とは一体何か、そして自分の演技も僧侶と同じく自らを死のような "現実" へと至らせるようなものなのか、という思いがこの驚きには込められていると解釈出来る訳です。 

 

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このシーンの前後あたりから舞台的な要素が強くなっていきます。看護師のアルマ、女医、らが正面に向かって語りかけるシーンが多くなるのですが、それは時に顔のクローズアップと共に私達の視線をそこに固定させ、私達との擬似直接感を引き起こし距離感を撹乱させるものになっている〈 続く 〉。

 

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 以下 ( 次回 ) の記事に続く。

 

 



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