以前、このブログの記事
僕を楽しませてくれた映画『 007 カジノ ロワイヤル 』のオープニングをクリス・コーネルの死から再び見直した
でクリス・コーネルについて触れ、
でクリスの出発点であるグランジバンドのサウンドガーデンについても触れましたので、ここで彼のソロアルバムについて語っておきますね。
1. 『 Euphoria Morning 』
『 Euphoria Morning 』、1999年に発表されたソロアルバム1作目。"Euphoria Morning"・・・文字通り訳すなら "朝の幸福感" というところでしょう。でも、アルバムを聞けば分かるけど、それは幸福が溢れているというよりは、クリス・コーネルが、自ら創りだした世界に心ゆくまで浸るという内省的な幸せに包まれている感じですね。曲調としては、サウンドガーデン時代のアルバムに入っていてもおかしくないような曲 ( 彼らのアルバムの中にしばしば見られるクリスの内面を掘り下げたようなもの ) がソフトなロック調になったものといえるでしょう。彼のシンガーとしての才能を再認識させてくれるほとんど捨て曲の無い名盤。
サウンドガーデン時代には見られなかった癒しの雰囲気があるアートワーク。
Chris Cornell "Can't Change Me" from 『 Euphoria Morning 』
アルバムの冒頭を飾ったヒット曲。
Chris Cornell "Preaching the End of the World" from 『 Euphoria Morning 』
アルバム製作時にクリスが、あまりにもありふれた曲調だとしてアルバムに入れるのを躊躇した曲。確かにサウンドガーデンっぽさはほとんどない普通の曲だが、その装飾のないシンプルさが心に響く1曲。
Chris Cornell "When I'm Down" from 『 Euphoria Morning 』
この曲を聴くと、彼がグランジ出身とか、それを捨てようとしていたとか、そんな類の話なんてどうでもよくなるくらい純粋に彼の歌声を堪能できる素晴らしい1曲。
Chris Cornell "Wave Goodbye" from 『 Euphoria Morning 』
親友であったジェフ・バックリィ ( 1997年にミシシッピ川で溺死 ) に捧げた曲。
Chris Cornell "Sweet Euphoria" from 『 Euphoria Morning 』
後年のソロアルバム『 Higher Truth 』の萌芽とでも言うべきブルースロック調の味わい深い1曲。
2. 『 Carry on 』
『 Carry on 』、2007年に発表されたソロアルバム2作目。1枚目の『 Euphoria Morning 』が内省的なアルバムであったのに対し、こちらはロックンロール調 ( あくまでクリス・コーネル流だけどね ) でまとめられた秀作。悪くはないのだけど『 Euphoria Morning 』の出来が良すぎたものだから、ちょっと物足りなさが残るかも。そんな中でも『 You Know My Name 』だけは突出している。この曲のために他の曲があるといってもいいくらいのカッコよさ。『 007 カジノロワイヤル 』で主題歌として聞き、そのためだけにアルバムを買った人もいるでしょう。
アップに耐えられる顔のカッコよさでいっぱいのアートワーク。渋いね。
Chris Cornell "You Know My Name" from 『 Carry on 』
このMVでの髪を逆立てたクリス・コーネルを見て、映画『 ファイトクラブ ( 1999年 ) 』の頃のブラッド・ピットを思い出した。カッコいいね。
Chris Cornell "Billie Jean" from 『 Carry on 』
このアルバムで "You Know My Name" と並んで聞き応えのある1曲。マイケル・ジャクソンのカバーだけど、クリス・コーネルの世界観でブルージーに歌い上げた傑作。
3. 『 Scream 』
2009年発表のソロアルバム3枚目の『 Scream 』。ラッパーであるティンバランドがプロデュースしたことでも話題になった作品。ティンバランドのプロデュースということから分かる通り、この作品はデジタルロック、あるいはデジタルR&Bというべきデジタル感満載の仕上がりになっている。故に、それまでの路線とは違うということから賛否両論となった。
ティンバランドがプロデュースしたジャスティン・ティンバーレイクの作品のように、彼のプロデュースとはミュージシャンの能力 ( 歌やギターが上手い、楽曲がカッコいい ) を前面に出すロック的なものではなく、打ち込みのビート、様々な効果音などを駆使したクールなデジタル空間 ( ヴォーカルもその中の 1要素 ) を包括的なものとして提供するところに特徴 ( いわゆるヒップホップ的手法 ) がある。
なのでティンバランドがクリス・コーネルにいかに敬意を持っていたとしても、そもそも彼のやり方はクリスの能力を全開に引き出すロック的なものではないので、つまらないという批判 ( 気持ちは分かるけどね ) は1, 2枚目のソロアルバム側の視点に立っているに過ぎず、このアルバムについては何も語っていないのと同じということになるでしょう。
アルバムの内容と噛み合っていないアートワーク・・・。これ見てアルバムを買った人は、内容を聴いてあれっ!と思ったはず。まあ、クリスとしてはそれまでのロック的なイメージを打ち壊すということを主張したかったのかもしれないけど。
Chris Cornell "Enemy" from 『 Scream 』
ティンバランドのデジタル的サウンドとクリス・コーネルの声の融合。以前のソロアルバムのファンからしたらつまらないだろうけど、このようなデジタルロックはティンバランドでなければ出来なかったという意味では新鮮味がある。こういうクールなサウンドが好きな人にはタマラナイでしょう。ただし、これがライブでどれだけ再現出来てたかというと正直キツかったと思う。
それと、少し前に発表されたジャスティン・ティンバーレイクのアルバム『 Man of the Woods ( 2018 ) 』でティンバランドがプロデュース ( その他の多くの曲はネプチューンズがプロデュース ) した曲 "Say Something" を聴くと、『 Scream 』も上手くやればロックファンが面白く感じるアルバムになってたかもって今更だけど思いましたね。
Justin Timberlake "Say Something" ft.Chris Stapleton from 『 Man of the Woods 』
この曲では今、最も知名度の高いカントリーミュージシャンの クリス・ステイプルトン をフィーチャーして、アーバンR&Bとでもいうべきスタイルを披露している。ああ、ティンバランドってこういうプロデュースも出来るんだなって思った。こういうのを『 Scream 』でもやってほしかったな。
4. 『 Higher Truth 』
2015年に発表された4枚目のソロアルバムであり、生前のクリスの最後の作品となった。これまでのソロアルバムに垣間見られたサウンドガーデンっぽさは余り感じられないものの、アコースティックサウンドのブルースロックでまとめられ渋い仕上がりになっている。
この作品は前作『 Scream 』の賛否両論からの反動として原点回帰したものと説明できるけど、もはやソロ1枚目の『 Euphoria Morning 』を通り越しレイドバックし過ぎてカントリーやブルースロックに至っているとも言える。
この背景には前作『 Scream 』のセールス的な問題もあったかもしれないけど、先にも述べた通り、ライブでの再現性の問題があった。ティンバランド的デジタル空間はライブでは思うように再現しにくいが故に、ステージ上のスカスカのサウンドは観客の盛り上がりを得ることが出来なかったと思う。
それならば、いっその事、自分の声や楽曲を純粋に味わってもらうためにアコースティックサウンドに回帰したのは容易に推測出来ますね。『 Scream 』と『 Higher Truth 』の間に発表されたアコースティックライブアルバム『 Songbook ( 2011 ) 』がその事を示していると言えるでしょう。
天に向かって鋭く尖っている山頂とそこに重なる太陽というデザインのアートワークがレトロっぽく、アルバムの内容 ( ブルースロック ) も象徴しているようでカッコいい。
Chris Cornell "Nearly Forgot My Broken Heart" from 『 Higher Truth 』
このMVはアルバムのアートワークを踏襲していて素晴らしい。もちろん曲もね。
Chris Cornell "Worried Moon" from 『 Higher Truth 』
ホント、聞き入ってしまうよ。素晴らしい。