〈 It / Es 〉thinks, in the abyss without human.

Transitional formulating of Thought into Thing in unconscious wholeness. Circuitization of〈 Thought thing 〉.

▶ ジョン・フリンの映画『 ローリングサンダー 』( 1977 )について考える

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監督 : ジョン・フリン        

脚本 ポール・シュレイダー 

   : ヘイウッド・グールド

公開 : 1977年

 

出演 ウィリアム・ディヴェイン    ( レーン少佐 )

  トミー・リー・ジョーンズ    ( ジョニー伍長 )  

   : リンダ・へインズ        ( リンダ・フォルシェ )

   : ローラソン・ドリスコル     ( クリフ )

   : ダブニー・コールマン      ( マクスウェル )

   : ルーク・アスキュー       ( スリム )

 

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  1.   社会への不適合者f:id:mythink:20210621101426j:plain


   フック船長のような2本爪の義手を装着した佇まいが渋いウィリアム・ディヴェイン主演の映画。この映画のタイトル『 ローリングサンダー』がベトナム戦争におけるアメリカ軍による北ベトナムへの爆撃作戦から来ている事は明らかでしょう。ベトナム戦争帰りの兵士たちの社会への不適合性というこの作品の時代背景を知らない人も、レーン少佐のこの異様な姿を見るだけで、普通じゃない "何か" を感じ取るはずです。その "何か" とは、周囲に馴染めない人間の醸し出す雰囲気や存在感であり2本爪の義手とはまさにそのようなものの象徴である と解釈する事が出来ますね。

 

   それ程、ベトナム戦争の帰還兵が受けた心の傷跡は大きかったし、アメリカという国にとってもベトナム戦争は、結果として長年に渡って疲弊を与えただけの負の歴史であったといえます。共産主義陣営とのイデオロギー対立を契機として、アイゼンハワーケネディ、ジョンソン、ニクソン、等の幾人もの歴代大統領にとっての政治的問題であり続け、泥沼にはまった挙句に最終的には撤退という形をとるしかなかったという経緯がありましたね。

 

  ベトナム戦争を経験した兵士の中には、社会復帰が上手く出来ない程のトラウマを抱え込んでしまう者もいたのでした。アメリカではベトナム戦争の経験が映画の1ジャンルを形作っているとさえいえます。『 ディアハンター』『 フルメタルジャケット 』『 プラトーン 』『 地獄の黙示録 』( これは少し毛色の違う異色作ですが )、などですね。

 

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  2.   社会的メッセージ? いや個人の生き方として・・・f:id:mythink:20210621101426j:plain


  ただし、それらの映画がアメリカの社会的経験として昇華されているのに対して、この『 ローリングサンダ ー』や同じ脚本家のポール・シュレイダーが関わった『 タクシードライバー 』、そして『 ランボー 』の第1作などは、監督や脚本家がわざとそうしなかったのか、それとも出来なかったのかは分かりませんが、社会的なメッセージを訴える方向に向かわずに、ひたすら 個人の生き様を描く事に固執 していますね。個人の虚脱感や敗北感がかろうじて社会的なものへの引っかかりを示してはいますが。

 

▶ つまり、ベトナム戦争などの大きな出来事がなくとも、社会に馴染めず、自分の流儀にこだわる事しか出来ない ( たとえ破滅的な結末であろうとも ) 不器用な人間はいる訳で、そのような個人の生き方に焦点を絞るなら、ベトナム戦争という大きなテーマでさえ、個人の人生の中ではひとつの要素に過ぎなくなってしまう程、強烈に人生の刹那を描いている訳です

 

   そう考えると、『 ローリングサンダー 』は、ベトナム戦争での拷問のトラウマが主人公に大きな影響を与えているとはいえ、殺された家族の復讐をする事しか出来ない彼の不器用な生き様をひたすら描いたカルト映画だといえるでしょう。

 

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  3.   いくつかの場面・・・f:id:mythink:20210621101426j:plain


  ベトナム戦争から帰還した夫に妻ジャネットは、親切にしてくれていた警官クリフとの交際を告白する。

 

"成り行きだったの"  by  レーン少佐の妻ジャネット

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  表向きは冷静を装うレーン・・・。というより戦争中の拷問のトラウマで感情の起伏がなくなっている?

 

"それ以上は聞きたくない"  by  レーン少佐

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  ベッドに横たわるレーン少佐の脳裏にフラッシュバックする拷問シーン。反射的に腕立て伏せを始めてしまう。身体を動かす事で悪夢をごまかそうとしている?しかも捕虜中はシーツのない板のベッドで寝ていたため、家のベッドもシーツをはがしてしまうという行動に出る・・・そして体育座り。

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  ジャネットとの交際の件で話しに来たクリフだが、なぜか突然、戦争中の拷問に耐えたレーン少佐を賞賛し出す・・・。ご機嫌をとる? それに対してレーン少佐はなぜかうれしそうになる。

 

"聞きたいんだろう" by  ニヤッと笑うレーン少佐

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   ロープを使った拷問を実演し始めるレーン少佐。通常であれば、相手にかけるであろう所を、なぜか自分にロープをかけてしまう …… これは相手に痛さが伝わらない自虐的行為。

 

"もっと高くだ  骨が音をたてるまで"  by  ロープでもっとキツくするよう訴えるレーン少佐

"もういい 充分だよ"  by  ドン引きするクリフ

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   冷静になったレーン少佐はクリフに釘をさす "おれの子供をチビと呼ばんでくれよ"。つまり身内であるかのようになれなれしくするなという事ですね。しかし、これでは根本的な解決になっていない。妻の事には触れずに "約束だぞ" と言って終わるのだから。妻との交際は黙認する? 微妙です。

 

"気にせんでくれよ"  by  レーン少佐

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   しかし、妻に裏切られようとも、渋いレーン少佐には女の方から寄ってくる。この時から彼の気持ちはリンダに傾いている。

 

"あなたは口数が少ないタイプね"  by  リンダ

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   家に帰ってきたレーン少佐を待ち受けるメキシコ人の強盗たち。町の歓迎式典でレーンが贈呈された銀貨を奪いにきたが、レーンは答えようとしない。

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  何発殴られても口を割らないレーン。戦時中の拷問場面がフラッシュバックしているが、それに比べたら耐えられると自分に言い聞かせている? そして手をライターで炙られても動じない。

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   強情なレーンに対して、強盗たちはさらなる痛みを加える。レーンの右手を台所下のディスポーザーに突っ込むという暴挙に出る!それまで無口だったレーンも苦痛のあまり、さすがに叫び声を挙げてしまう!しかし、砕けてしまった自分の右手をかばいながらも、銀貨の在りかはしゃべらない。

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   そこにタイミング悪く帰ってきたレーンの妻と息子。強盗は銀貨を渡さないとレーンを殺すと脅す。父を助けるために銀貨を取りにいく息子。その様子を見た強盗のスリムはレーンに向かって言う "このバカ野郎、痛い思いをしただけだぞ"。そんな強盗に同調するかのように妻のジャネットも言う "チャーリー、なぜ言わなかったの?"。それに対して強盗のボスは言う "そいつはバカだからさ"

 

  敵だけでなく身内からも非難轟々のレーン。それこそ答えようがなく、何も言わずにいるしかないでしょう ( 悲 )。しかし、銀貨を渡した後、妻と息子は強盗たちに撃ち殺されてしまいます。

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事件後に入院して療養するレーン少佐と見舞いに来たトミー・リー・ジョーンズ演じるジョニー伍長。トミー・リー・ジョーンズが若い。若いといっても当時30才くらいですが。それでも予備知識がなければ、彼だと気付かない人は結構いるかも。日常生活に馴染めない彼ら。

 

"今となっては人並みの生活には戻れませんよ。あなたは?"  by  ジョニー伍長

"どうでもいいさ"  by  レーン少佐

 

   本当はどうでもいいわけではないでしょうが、今のレーンは、"復讐" の事しか考えられないという所でしょう。それはジョニー伍長も察していて、こう言います "奴らには生きる権利はありませんよ"

 

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    退院して自宅で2本爪の義手の調整をするレーン。長すぎる銃身を切り、使いやすくしたショットガンを用意して復讐のための準備を整える。

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   レーン少佐は、リンダを一緒に連れて行くのだが、危ない目にあって振り回されっぱなしの彼女は、ついに切れて車から降りる。しかしレーンは彼女を追っかけ、取っ組み合いのケンカを始めてしまう。

 

"こんな車には乗ってられないわ!"  by  リンダ

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  取っ組み合いが終わると、リンダはレーンに言います "私はあなたのものよ!"。さっきまでのキレ具合はどこへやら。レーンに惚れた女に様変わりする。 

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   レーンに完全に惚れきったリンダは、レーンに復讐をやめさせようとします。

 

"こんなことする必要があるの?"

"しばらく私と暮らさない?"

"抱いて"

 

レーンは表情ひとつ変えない。

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  モーテルで一夜を過ごした彼ら。レーン少佐は軍服に着替え、お金を残し、リンダに気付かれないように部屋を出る。強盗たちとの最後の戦いに出向くために、好きな女をこれ以上巻き込みたくないとの配慮から、愛すら振り切ってしまう!

 

   しかし普通の人なら、こう思うでしょう "なぜ軍服なんだ?戦争ではなく個人的な復讐なのに" 。でも、それは野暮な疑問です。レーン少佐にとって、命をかけた戦いに赴く時の正装は、軍服なのです。極端に言うなら、命をかけるという意味では、戦争だろうが個人的復讐であろうが何ら変わりないのです。

 

  たしかに一般人の日常感覚からすると、レーン少佐は狂っているのかもしれませんが、彼は既にベトナム戦争で日常感覚を失っているのであり、それは同時に 彼の中では彼の戦争 ( 歴史的な大文字の戦争ではなく、命をかけた彼の孤独な内面的戦い ) は未だ終わっていない ことを意味します。

 

こうなると誰も彼を止められない。

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   強盗たちと戦うために、ジョニー伍長を必要とするレーン少佐は彼の家を訪れる。強盗を見つけたと言うレーンに対し、ジョニーは何のためらいもなく答える "片づけに行こう"。レーンの個人的復讐にも関わらず、かつての上官には今でも従うのは当然だといわんばかりのジョニーは、やはりレーンと同様、日常生活に戻れない不適合者であり、戦争が必要な男だった!

 

   軍服を着たジョニー伍長は彼の父に言う "さよなら パパ"

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   強盗たちがいる売春宿に乗り込むレーン少佐とジョニー伍長。真っ先に殺されてしまう強盗のボス。何と掟破りな!何のためらいもなく強盗たちを撃ちまくる! 

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  撃ちまくるだけじゃ済む訳はない。ついにレーン少佐は敵のスリムに腹部を撃たれてしまう。倒れながらも反撃するレーン少佐。

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  立ち上がり、スリムにトドメをさすレーン少佐。戦いが終わりジョニー伍長に肩を貸すレーン。歩いて帰る2人。復讐を成し遂げたものの、そこに満足感などはなく虚脱感だけが残る。彼らは一時的なカタルシスを得たのかもしれないが、その後はどうなるのか。デニーブルックスが歌う〈 サン・アントニオ 〉がエンドロールで流れる。

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