監督 : サム・ライミ
公開 : 1990年
出演 : リーアム・ニーソン
: コリン・フリールズ
: ラリー・ドレイク
1. B級映画監督サム・ライミによるダークヒーロー
a. かつては『 死霊のはらわた 』などのホラー映画でB級映画の監督として知られたサム・ライミが『 スパイダーマンシリーズ 』以前に作ったダークヒーローものの原典といえる映画です。ダークヒーローといえば、今ではクリストファー・ノーランの『 バットマン ダークナイト 』が有名ですが、それに影響を与えているといっても過言ではないでしょう。この風貌からして異形のダークヒーローというしかないです。『 ダークナイト 』のトゥーフェイスことハービー・デント検事を思い起こさせますね。
2. ダークマンの誕生
a. 人工皮膚製作の研究に取り組んでいる科学者のペイトン・ウェストレイク ( リーアム・ニーソン ) は、一緒に暮らしている恋人の弁護士ジュリー・ヘイスティングス ( フランシス・マクドーマンド ) が持つ書類 ( 土地開発に絡む収賄事件の証拠 ) を盗りにきたロバート・G・デュラント ( ラリー・ドレイク ) らのマフィアに襲われて全身に重度の火傷を負ってしまいます。
b. 収容先の病院で痛覚を取り除くための神経を切られた事によって感情の抑制が難しくなったペイトンは怒りに伴うアドレナリンの増大で超人的な力を発揮できるようになります。寝台にしっかりと固定されたペイトンは目を覚まし怒りのパワーで固定バンドを外し、病院を抜け出してからマフィアへの復讐を始めるのです。自らの研究であった人工皮膚を被り、誰にでも成りすませる事も出来ます。ただし、人工皮膚は暗闇では維持出来るが、光のある場所では99分間しかもたない。つまり、これはペイトン自身が人前に本来の姿を晒せず、闇の中で生きていく事しか出来ない事を象徴しています。このとき、ダークマンが誕生したのですね。
3. ダークヒーローは正義ではない?
a. マフィアを裏で操っていた不動産業界の大物ルイス・ストラック・Jr ( コリン・フリールズ ) によって連れ去られたジュリーを救うために、ペイトンは骨組みだけの建設中の高層ビルでルイスと戦います。ルイスは若い頃このような場所で父親に働かされていたらしく戦闘的に優位なのに対して、ペイトンは足元がおぼつかなく苦戦を強いられる。右手を釘で鉄骨に打ちつけられ身動きできず万事休すかと思われましたが、ここでアドレナリンを分泌による超人的パワーで釘を引っこ抜くと、その勢いでルイスに反撃します。その間にジュリーを先に助けたりして最後にルイスを吹っ飛ばすのですが、落下しそうになるルイスの片足を引っ張り、踏み留めます・・・。
b. そこでルイスは言います、「 私を殺したら、お前は私以上の悪人になる。お前にはそんなこと出来ない 」。しかし、ペイトンは目を閉じて手を離す。そして落下するルイスを見ながら「 良心を鍛えるだけだ 」と言い放つのです。
c. 戦いの最中にルイスにも言われましたが、ペイトンは自分の振舞いが正義などではなく、復讐に過ぎない事を承知していたのです。では復讐が正義でなければ、それは何でしょう? 端的に言うと、それは もうひとつの悪 です。復讐という名の悪が、自分を苦しめた最初の悪を滅ぼしたに過ぎないのです。ここには正義は残念ながらないといえるでしょう。それでも正義というのなら、それは悪自身が、自らに対して良心の呵責を持ち始めた事を示す標識としての言葉に過ぎないものであるが、残念ながらそれは自分から目を逸らす悪の振舞いに過ぎません。
d. なのでダークマンからスパイダーマン、バットマンに連なる系譜としてのダークヒーローの特徴とは、自分も ひとつの悪に過ぎない のであり、そこから逃げ出そうにも逃げ出せず、自分の中でそれを背負い続ける宿命を持った者だといえるでしょう。
■ 本作に出演したラリー・ドレイクが2016年3月17日、ハリウッドの自宅で亡くなられました。享年66才。ご冥福をお祈りします。