■ 前回の記事 を書いている時、国立競技場改修案のことも気になりました。今回は建築物の改修について少し書いておきます。ちなみに国立競技場改修案は、いつのまにか立ち消えになっていたのですが、その辺の経緯についてはジャーナリストの大根田康介氏が興味深い記事を書いています。国立競技場改修はなぜ消えた?:|NetIB-NEWS|ネットアイビーニュース
■ それによると、もともとJSCは2010年に国立競技場耐震改修基本計画の策定業務を依頼していたという。それに対する久米設計の国立競技場耐震改修基本計画はインターネット上でも見ることが出来ます ( 80ページの抜粋版ですが )。
■ そこまで話が来ていた改修案がなぜ建替えになってしまったのか? それに対して大根田氏は、2010年11月に設立されたラグビー議連の政治力 ( 大物政治家が名を連ねています ) によるものだとしていますね。詳しくは記事の方を。また以下に紹介する森山氏の記事でも久米設計の国立競技場耐震改修基本計画について取り上げています。
1章 世界のスタジアムの改修
1. 建築エコノミストの森山高至氏が世界のスタジアムの改修例を取り上げていて興味深いです。新国立競技場問題シンポで世界のスタジアム改修事例を紹介 - ログミー
レアル・マドリードの「サンティアゴ・ベルナベウ」、セリエA トリノFCの「スタディオ・オリンピコ・デ・トリノ」、ドイツの「ベルリン・オリンピア・シュタディオン」、などが例として挙げられています。
2. では日本ではどうなのか? 日本では新築でないと銀行からの融資がおりにくい。古い建築物には担保価値がないからお金を貸せないという事です。そのような状況を変えるためには、改修建築の資産価値評価制度を確立する必要があると森山氏は言っています。
2章 北九州市立戸畑図書館
1. そのあと、日本における改修例として北九州市戸畑区役所 ( 1933年に建築された帝冠様式の建物 ) を取り上げていますが、これが素晴らしい。建築家の青木茂と構造設計者の金箱温春氏によって、この建物は "北九州市立戸畑図書館 ( 2014年 )" として再生されました ( 青木氏はこのような改修をリファイニング建築として提唱しています )。
2. 既存躯体の調査の結果、耐震補強を伴う再生工事だった訳ですが、内部の耐震補強部材としてスチール製のアーチフレームを使用し、そのほかにも円筒状の補強材や耐震壁を内部に設け、地震時の水平応力を負担させているとのことです。
■ 上記の写真は青木茂建築工房のウェブサイトから。
■ 工事前後の写真については
■ この建物が素晴らしいのは、1930年代の帝冠様式の外観を保存しているだけではなく、スチールの補強材などを内部に設置して 目に見えるようしている点 だと思います。それによって 私達の住む現在という時間もこの建物に痕跡として刻み込まれ、歴史の重層性を作り上げている事 が分かるようになっていますね。これはまさしく建築物が未来へ引き渡されていく遺産となっている事のよい例ではないでしょうか。