哲学的考察と備忘録

ブログタイトルをクリックすると先頭ページのカテゴリー欄が現れます。

SFカルト映画:『 ノイズ 』( 1999年 ) を哲学的に考える

f:id:mythink:20180728185440j:plain

 

f:id:mythink:20180729224228j:plain

 

公開:1999

監督:ランド・ラビッチ

出演:ジョニー・デップ   ( スペンサー・アーマコスト )

  :シャーリーズ・セロン ( ジリアン・アーマコスト )

 

f:id:mythink:20180728185500j:plain

 

 SF映画と見せかけて、実はSFではないサスペンスホラー映画

f:id:mythink:20180728185440j:plain

 

  この映画、公開当時はジョニー・デップシャーリーズ・セロンが主演しているという意味ではメジャーっぽい扱いだった。そして、宇宙空間での作業中に何らかの事故を経て地球に帰還したジョニー・デップ ( スペンサー・アーマコスト役 ) に妻のシャーリーズ・セロン ( ジリアン・アーマコスト役 ) が不信感を抱くというストーリーがSFっぽさを予感させるものだったけど、宇宙のシーンはごくわずか。SFメジャー性を裏切るサスペンスホラー作品であり、監督のランド・ラヴィッチも代表作がほとんどない事を考えると、この作品をカルト映画と言っても差し支えないでしょう。

 

 

ローズマリーの赤ちゃん ( 1968年 ) 』へのオマージュ

f:id:mythink:20180728185440j:plain

 

   この映画の邦題をなぜ『 ノイズ 』にしてしまったのかと思いましたね。たしかに映画中にノイズ ( おそらく宇宙人との交信を意味する ) は出てくるけど、シャーリーズ・セロンが『 ローズマリーの赤ちゃん 』のミア・ファローのショートヘアを明らかに真似ていたり、悪魔の子 ( 『ノイズ』では宇宙人の子 ) を身篭るというストーリーを考慮に入れるなら、『 ローズマリーの赤ちゃん ( Rosemary's Baby ) 』に倣った原題通りの『 宇宙飛行士の妻 ( The Astronaut's Wife ) 』にすべきだったでしょう。そうすれば、この映画が『 ローズマリーの赤ちゃん 』へのオマージュであるというという事で話題性をもっと上げる事も出来たのに。

 

   ちなみに、『 ローズマリーの赤ちゃん 』にはミア・ファローの夫役でジョン・カサヴェテスが出演していますが、『 ノイズ 』にはジョニー・デップの同僚の宇宙飛行士アレックス・ストレック役で、ジョン・カサヴェテスの息子であるニック・カサヴェテスが出演しているのは偶然ではないかもしれませんね。

 

 

いくつかのシーン

f:id:mythink:20180728185440j:plain

 

   アレックス・ストレック ( ニック・カサヴェテス ) の妻ナタリー ( ドナ・マーフィー ) が自らの妊娠を宇宙人の子の受胎だと知って感電自殺したように、ジリアン ( シャーリーズ・セロン ) が自殺するのを阻止するスペンサー ( ジョニー・デップ ) 。

 

f:id:mythink:20180804202851j:plain

 

f:id:mythink:20180804202909j:plain

 

f:id:mythink:20180804202927j:plain

 

感電するスペンサー。ジリアンは椅子の上に逃げることで回避。

f:id:mythink:20180804202944j:plain

 

スペンサーの身体から離れてジリアンの方に移動する宇宙人の憑依態。

f:id:mythink:20180804203003j:plain

 

宇宙人の乗っ取り完了。悪人顔になるジリアン。

f:id:mythink:20180804203216j:plain

 

 

夫婦関係から母子関係への移行

f:id:mythink:20180728185440j:plain

 

   この映画を哲学的に解釈するなら、緊張を孕む不安定な夫婦関係から、夫を排除する母子の信頼関係 ( 正確に言うなら、子は夫の代理であり、その子に対する母の一方的な信頼 ) への移行が無意識的に描かれているといえるでしょう 【 ※1

 

   人は恋愛関係においては相手のリアルな他者性を感じる事はないが ( 恋愛の幻想に溺れているので )、夫婦関係において社会的生活 ( 経済性、周囲との人間関係など ) を経てすぐ側のパートナーのリアルな他者性をいやでも味わう事になり、それは相手への耐え難さに行き着く事になる。

 

   この意味で、『 ノイズ 』における宇宙人とは、妻の立場からの夫の他者性への嫌悪を最も象徴的に示すものなのです。妻は妊娠における他者の受胎に最初は抵抗があるものの、やがて精神的な同化作業による受容れと、夫への精神的縁切りへ向かわせるという彼女の主体化がモチーフとして描かれている訳です。

 

  このことは、社会構造の中で、同じ家族でありながら夫婦関係に対立するものとしての母子関係が家族関係を規定する力を持っている事を示すといえるでしょう。そしてその母子関係の発端とは、妻の夫の他者性に対する異和感であり、自分という主体に固執する上での防御ともいえるのですね。

 

   もちろん、『 ノイズ 』がオマージュを捧げている『 ローズマリーの赤ちゃん 』も同じように解釈する事が可能でしょう。ただし、『 ローズマリーの赤ちゃん ( 1968年 )  』にミア・ファローの夫役で出演しているジョン・カサヴェテスが後年、監督をした『 こわれゆく女 ( 1974年 ) 』で、バラバラになりそうな家族関係の中での夫婦の縁の切れなさを描き切ったのは興味深いことです【 ※2。カサヴェテスは言っています  "僕が思うに・・・今日の男女の間には根源的な敵意がある。だから、僕はこの映画 ( 『こわれゆく女』) の中で、根源的な敵意ではなくて、愛を選んだ。そこには奇妙な愛がある。それは奇妙だが、決定的だ"。

 

 

f:id:mythink:20180730143055j:plain



【 ※1

母子関係の最悪なものを描いたのがアルフレッド・ヒッチコックの有名な作品サイコ ( 1960年 )ですね。以下の記事を参照して下さい。

 

【 ※2

ジョン・カサヴェテス監督のこわれゆく女 ( 1974年 )については、こちらの記事を参照して下さい。とにかくカサヴェテスの女性への洞察には驚かされるものがあります。そこには精神分析的な客観視などではなく、女と共に生きていこうとする男の強い意志があるからでしょう。

 

 

 

f:id:mythink:20180730143055j:plain