〈 It / Es 〉thinks, in the abyss without human.

Transitional formulating of Thought into Thing in unconscious wholeness. Circuitization of〈 Thought thing 〉.

ランド・ラビッチの映画『 ノイズ 』( 1999 ) を哲学的に考える

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公開 : 1999年

監督 : ランド・ラビッチ

出演 : ジョニー・デップ   ( スペンサー・アーマコスト )

   : シャーリーズ・セロン ( ジリアン・アーマコスト )

 

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この記事は『 ノイズ 』の哲学的解釈と洞察に重点を置き、"考える事を味わう" という僕の個人的欲求に基づいています。なので、深く考えることをせずに抽象的な説明に否定的な反応をする方は、別の場所に行くべきでしょう。そのような反応は、知性へのヒステリーという愚かな紋切型でしかないのですから。実際は、この記事は全く気軽に愉しむべきものです。ここでは、誰かが物事を抽象的に考えることを止めたりしないし、気の済むまで考える自由もあるのですから、思考することそれ自体を、何処までも享楽すべきなのです。

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 1. SF映画と見せかけて、実はSFではないサスペンスカルト映画

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f:id:mythink:20210212192015j:plain この映画、公開当時はジョニー・デップシャーリーズ・セロンが主演しているという意味ではメジャーっぽい扱いだった。そして、宇宙空間での作業中に何らかの事故を経て地球に帰還したジョニー・デップ ( スペンサー・アーマコスト役 ) に妻のシャーリーズ・セロン ( ジリアン・アーマコスト役 ) が不信感を抱くというストーリーがSFっぽさを予感させるものだったけど、宇宙のシーンはごくわずか。SFメジャー性を裏切るサスペンスホラー作品であり、監督のランド・ラヴィッチも代表作がほとんどない事を考えると、この作品をカルト映画と言っても差し支えないでしょう。

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   2. 『 ローズマリーの赤ちゃん ( 1968年 ) 』へのオマージュ

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f:id:mythink:20210212192015j:plain   この映画の邦題をなぜ『 ノイズ 』にしてしまったのかと思いましたね。たしかに映画中にノイズ ( おそらく宇宙人との交信を意味する ) は出てくるけど、シャーリーズ・セロンが『 ローズマリーの赤ちゃん 』のミア・ファローのショートヘアを明らかに真似ていたり、悪魔の子 ( 『ノイズ 』では宇宙人の子 ) を身篭るというストーリーを考慮に入れるなら、 ローズマリーの赤ちゃん ( Rosemary's Baby ) 』に倣った原題通りの『 宇宙飛行士の妻 ( The Astronaut's Wife ) 』にすべきだったでしょう。そうすれば、この映画が『 ローズマリーの赤ちゃん 』へのオマージュであるというという事で話題性をもっと上げる事も出来たのに

 

f:id:mythink:20210212192015j:plain   ちなみに、『 ローズマリーの赤ちゃん 』にはミア・ファローの夫役でジョン・カサヴェテスが出演していますが、『 ノイズ 』にはジョニー・デップの同僚の宇宙飛行士アレックス・ストレック役で、ジョン・カサヴェテスの息子であるニック・カサヴェテスが出演しているのは偶然ではないかもしれませんね。

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 3. いくつかのシーンf:id:mythink:20210320151713j:plain


f:id:mythink:20210212192015j:plain   アレックス・ストレック ( ニック・カサヴェテス ) の妻ナタリー ( ドナ・マーフィー ) が自らの妊娠を宇宙人の子の受胎だと知って感電自殺したように、ジリアン ( シャーリーズ・セロン ) が自殺するのを阻止するスペンサー ( ジョニー・デップ )

 

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f:id:mythink:20210212192015j:plain 感電するスペンサー。ジリアンは椅子の上に逃げることで回避。

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f:id:mythink:20210212192015j:plain スペンサーの身体から離れてジリアンの方に移動する宇宙人の憑依態。

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f:id:mythink:20210212192015j:plain 宇宙人の乗っ取り完了。悪人顔になるジリアン。

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 4. 夫婦関係から母子関係への移行f:id:mythink:20210320151713j:plain


f:id:mythink:20210212192015j:plain   この映画を哲学的に解釈するなら、緊張を孕む不安定な夫婦関係から、夫を排除する母子の信頼関係 ( 正確に言うなら、子は夫の代理であり、その子に対する母の一方的な信頼 ) への移行が無意識的に描かれているといえるでしょう

 

f:id:mythink:20210212192015j:plain   人は恋愛関係においては相手のリアルな他者性を感じる事はないが ( 恋愛の幻想に溺れているので )、夫婦関係において社会的生活 ( 経済性、周囲との人間関係など ) を経てすぐ側のパートナーのリアルな他者性をいやでも味わう事になり、それは相手への耐え難さに行き着く事になる。

 

f:id:mythink:20210212192015j:plain   この意味で、『 ノイズ 』における宇宙人とは、妻の立場からの夫の他者性への嫌悪を最も象徴的に示すもの なのです。妻は妊娠における他者の受胎に最初は抵抗があるものの、やがて精神的な同化作業による受容れと、夫への精神的縁切りへ向かわせるという彼女の主体化がモチーフとして描かれている訳です。

 

f:id:mythink:20210212192015j:plain   このことは、社会構造の中で、同じ家族でありながら 夫婦関係に対立するものとしての母子関係が家族関係を規定する力を持っている 事を示すといえるでしょう。そしてその母子関係の発端とは、妻の夫の他者性に対する異和感であり、自分という主体に固執する上での防御ともいえるのですね。

 

f:id:mythink:20210212192015j:plain   もちろん、『 ノイズ 』がオマージュを捧げている『 ローズマリーの赤ちゃん 』も同じように解釈する事が可能でしょう。ただし、『 ローズマリーの赤ちゃん ( 1968年 )  』にミア・ファローの夫役で出演しているジョン・カサヴェテスが後年、監督をした『 こわれゆく女 ( 1974年 ) 』で、バラバラになりそうな家族関係の中での夫婦の縁の切れなさを描き切った のは興味深いことです、『 ローズマリーの赤ちゃん 』の撮影時にミア・ファローフランク・シナトラと離婚した事を考えれば。カサヴェテスは言っています、

 

 

僕が思うに・・・今日の男女の間には根源的な敵意がある。だから、僕はこの映画 ( 『こわれゆく女』) の中で、根源的な敵意ではなくて、愛を選んだ。そこには奇妙な愛がある。それは奇妙だが、決定的だ

 

 

 

f:id:mythink:20210212192015j:plain   『 ローズマリーの赤ちゃん 』についてはこちらの記事を参照。

 

f:id:mythink:20210212192015j:plain   母子関係の最悪なものを描いたのがアルフレッド・ヒッチコックの有名な作品『 サイコ 』( 1960 ) ですね。以下の記事を参照。

 

f:id:mythink:20210212192015j:plain   ジョン・カサヴェテス監督の『 こわれゆく女 』( 1974 ) については、こちらの記事を参照。とにかくカサヴェテスの女性への洞察には驚かされるものがあります。そこには精神分析的な客観視などではなく、女と共に生きていこうとする男の強い意志があるからでしょう。

 

 

 

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