〈 It / Es 〉thinks, in the abyss without human.

Transitional formulating of Thought into Thing in unconscious wholeness. Circuitization of〈 Thought thing 〉.

▶ ヘーゲルにおける精神と幽霊 -幽霊の哲学ー(5)

 

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    ヘーゲルにおける精神と幽霊 -幽霊の哲学ー(4)からの続き



 5.  知としての精神

 

a.   ヘーゲルにおいては、精神は自らを自己の元ではなく他のものにおいて他在するという形で自己を回復する。しかし、ここからが大切なのですが、自己を回復するといっても、それは通常思われているように他在を廃棄する事ではありません。つまり通常の標準的理解とは違い、自己は他在において疎外されたままなのです。では自己を回復するとはどういう事なのか。そのためにはヘーゲルの言う〈 精神 〉が何 "である" のかに注意する必要があります。

 

b.   といえ "である" という表現は精神の本質を示すのにふさわしくないでしょう。というのも精神とはひとつの実在ではないし、ハイデガー的な存在でもないからです( 精神が自らを定立する為に存在という形式を利用する事はあるにしても )。端的に言うなら、ヘーゲルの言う精神とは知であるが、その知はそれ自身においては実在、あるいは存在ではないのです。では知とは何か。最も重要なポイントは、ヘーゲルが言いたいのは、何らかの対象について知るという意味での知ではなく、"知という形態" が現実に出現している という事なのです。

 

c.   それはある対象がその反対物から見られている限りは、当然、相互に排斥しあうという否定的関係ですが、知の立場からするとその否定的関係自体は知にとって "知られるため" に出現した基本的関係 ( この時点でこの関係性は既に否定的なものではなくなっている ) 以外の何物でもないという事です。この意味で否定的関係や自己疎外は知を無視したそれらだけの元の関係性においては廃棄されるが、その関係性という形式自体は知にとって知られるために有効なものとして知の中で保持される のです。それが先程述べた自己は他在において疎外されたままなのであるという事の意味なのですね。

 

d.   ではここでの知の動き方は どのようなものなのでしょう。それは主体として自ら何かを掴みにいくという単純な能動的行為ではありません。対立する事物同士の反照規定という関係性は、それらの事物の中だけに属するように見えるが、その反照規定という概念に忠実であれば、それはひとつの〈 抽象 〉になってそれらの事物から脱して新たな運動を開始する

 

e.   つまり、対立する事物同士の関係の結果に過ぎなかったものが、その関係性が抽象化されそれ自体( 反照規定 )として独立すると、今度はその関係性がその名の通り自らに忠実に運動を開始する。事物という対象同士の結果に過ぎなかったものが、今度は自らを対象として動き出す。

 

f.   そうするとどうなるのでしょう。対立という関係性が事物同士の中に限定されるのものではなくなり、それは別の次元つまり知との関係性におけるものへ移行する のです。さらに言うならば、それは反照規定の効力が事物の対立関係をひとつの極 ( ひとつの内部抗争 ) とした後、もう一方の極として知の次元を呼び起こし、引き寄せてくる。これこそ何かを知るのではなく、"知られるようになるという事柄の出現" としてのヘーゲルが言うところの "" なのです。これは精神分析ジャック・ラカン的な意味での "現実界としての知" であるとも言う事が出来るでしょう。

 

g.   以上の事は哲学的説明としては段階的な運動を示しているように見えますが、それはあくまで説明のためであり、理解としては一気に理解される必要があります。つまり、絶対知への移行は常に既に完了しているのであり、究極的には "自己疎外された対象としての物がそれ自体でひとつの知である" と理解されねばならない のです。それこそが絶対知なのです。ヘーゲルは精神の運動の過程を歴史の発展段階と重ね合わせて哲学的叙述を行いましたが、それも絶対知を一気に理解しているからこそ出来る応用技なのです。少し考えれば分かりますが、絶対知を理解せずに叙述されたヘーゲル的歴史の発展段階には何の意味もない。最初に絶対知の哲学的理解が一気に完了されてなければ、発展段階の最後が絶対知に至ることの根拠はどこにも無いのです、残念ながら ( 言うまでもなく、これはヘーゲルに対する批判ではなく、ヘーゲルを批判する人の理解力に対する批判なのですが )。〈 続く 〉。

 

 

 次回 ( 以下 ) の記事に続く。