〈 It / Es 〉thinks, in the abyss without human.

Transitional formulating of Thought into Thing in unconscious wholeness. Circuitization of〈 Thought thing 〉.

パラティッシについて哲学的に考える〈1〉

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昨年の話になりますが、2015年は、北欧の陶磁器ブランド「ARABIA」の人気シリーズである"パラティッシ"のデザイナー、ビルガー・カイピアイネン ( Birger Kaipiainen )の生誕100周年でした。ここ日本でも、パラティッシは雑貨 ( 特に北欧雑貨 ) 好きな女性たちの間で大人気の食器です。でも男性を含めて考えると食器ブランドのARABIAに興味を抱く人って多くはないかな・・・と思いながらも書いていきますね、いつも通り哲学的な調子で。

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  1.  ARABIA社

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まずは簡単な説明を。

 

   ARABIA社とは、1873年フィンランドヘルシンキ郊外「アラビア地区」で創業された陶磁器ブランドです。現在に至るまで140年の歴史があるのですが・・・皮肉な事にビルガー・カイピアイネンの生誕100周年の2015年、アラビア工場が閉鎖される事が決定されましたフィンランドの企業における人件費の負担と経済のグローバル化の流れの中で、ARABIAの経営権を持つフィスカルスグループは生産拠点を海外の下請工場に移すことを選択したのです。この件についてはフィンランド国内からも反発の声が挙がっているようですね

 

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  2.  パラティッシ:paratiisi

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   そしてパラティッシparatiisi:フィンランド語で"楽園"の意味 ) です。これはプレートになりますね。他にもボウル、ティーカップ&ソーサー、コーヒーカップなどがあります。色の種類としては、ブラック( 白×黒 )、カラー( 黄×青 )、パープル、の三つになります。これ以上、華のある食器はもう出てこないのではと言っても言い過ぎではないでしょう。

 

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  3.  ビルガー・カイピアイネン:Birger kaipiainen

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   パラティッシを産み出した陶芸作家のビルガー・カイピアイネンです。

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   1915年生まれの1988年没。ARABIAのアート部門で数多くの作品を産み出しました。鳥や植物 ( 特にヴィオラ。カイピアイネンがお気に入りだったショパンの好きな花がヴィオラ ) などをモチーフにした装飾的模様を特徴としています。

そんな彼の作品です。

 

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 画像は カイピアイネン作品展 : ARABIA 通信 から ( 残念ながら今は更新されていないようです。2016年現在 )

 

 

   2013年フィンランドエスポー現代美術館で開催された Birger kaipiainen 展の様子です。

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 この貴重な写真は北欧雑貨のお店 Fukuya さんのブログからお借りしました。

 魅惑のビルゲル・カイピアイネン(Birger Kaipiainen)展 | Fukuya通信

 

 

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   4.  ARABIA社と芸術

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a.   いかがでしょう、この強烈な個性が発揮された作品たちは。先に挙げた一般家庭での食器として量産化された小奇麗でおしゃれなお皿とは違う生々しい ( もっというなら毒々しさ!) 生命力に溢れていますね。これらの作品の中には、当然パラティッシの原型になるものもありますが、この差を一体どう考えればいいのでしょう?

 

 

b.   彼は一陶芸家として自由な作風を追求したのだから、別に不思議なことではないと考えるとしたら、それは少し違います。というのも彼は独立した陶芸家であったのではなく、ARABIA社のアート部門に所属する陶芸家だったからです。普通に考えると、ARABIA社は家庭用食器を生産する会社なので、所属する陶芸家も当然、量産化を前提とした作品つくりに取り組むはずでしょう・・・。

 

 

c.   ところが上で見たように彼の作品は量産化を前提としているどころか、そんなものを無視したかのような大胆で個性的な作品になっています当時のARABIAのアート部門は、そのような自由な創作活動を保証し、生産ラインにおける量産品との統合を可能にしていました。所属の作家の作品を原型とした上でそれを量産品に上手く落とし込み優れた食器を提供する方針だったという訳です

 

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  5.  芸術作品と量産品

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a.   さて前振りが長くなりましたが、このことを踏まえた上で、僕が考えたいのは次のような事です。

 

b.   ビルガー・カイピアイネンが直接産み出した1点ものの作品の生々しさと量産品パラティッシの上品さとの間には誰の目にも明らかな落差があります ( 実際はそう感じていても、この事を語る人はほとんどいませんが )。これをそれぞれ用途が違う ( アート日常用との違い ) のだから原型と量産品との間に違いがあるのは当然としか考えられないのであれば、思考はそこで停止し、話はそれ以上進みません。僕はそこから話を先に進めたいという訳です。

 

c.   よく売れている量産型のパラティッシを所有する人達に、金額面は抜きにして ( 当然、1点ものの方に高値が付いてますからね ) 1点ものを所有したいか尋ねてみましょう。おそらく、ヴィンテージの北欧雑貨が好きなマニア以外は、所有したいとは思わないでしょう。

 

d.   なぜなら量産型のパラティッシを所有する人達は、"日常の食器使い"として購入しているのであり、その美しい食器が自分たちの食卓を華やかにする事に喜びを見出しているからです。そういう人達にとって日常生活で普段使い出来ないアートピースは別物なのであり、ましてやビルガー・カイピアイネンという作家すら後付の知識として得るものなのです ( マニアの人にとってはビルガー・カイピアイネンというネームバリューが大事なのですが )。

 

e.   このような事情に対して僕はビルガー・カイピアイネンの芸術性をもっと理解すべきだという単純な結論を出すつもりはありません。ここから先は話を進めるためには、幾つもの珠玉の論文・エッセイを書いたユダヤ人思想家 ヴァルター・ベンヤミンの「複製技術時代の芸術」を参照することにしましょう。話が長くなるので、続きは次回へ・・・。

 

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     パラティッシについて哲学的に考える〈2〉へ続く

 

 

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